はじめに
データサイエンスの世界には、数多くの強力なプログラミング言語が存在します。中でもPythonは、その汎用性の高さから絶大な人気を誇っています。しかし、データ分析、特に統計解析と可視化の分野において、今なお多くの専門家から絶大な信頼を寄せられている言語があります。それがR言語です。
「PythonがあればRは不要では?」と感じる方もいるかもしれません。しかし、RにはPythonにはない独自の強みと、分析を深く、そして効率的に行うための優れたエコシステムが存在します。
この連載では、全10回にわたって、データ分析の世界で輝きを放ち続けるR言語の魅力と、その実践的な使い方をゼロから学んでいきます。今回はその第一歩として、「なぜ今Rを学ぶべきなのか」、そして分析に必須のツール「RStudio」の導入方法までを解説します。
R言語とは?
Rは、1993年にニュージーランドのオークランド大学で、ロス・イハカとロバート・ジェントルマンによって開発されたオープンソースのプログラミング言語です。そのルーツは、AT&Tのベル研究所で開発されたS言語にあり、当初から統計計算とデータ可視化に特化して設計されています。
Rの主な特徴
- 統計解析に特化: 記述統計、t検定、分散分析、線形・非線形回帰、クラスター分析など、膨大な数の統計手法が標準機能やパッケージとして提供されています。
- 強力な可視化機能:
ggplot2
に代表されるパッケージを使えば、論文やレポートにもそのまま使える高品質で美しいグラフを柔軟に作成できます。 - 豊富なパッケージ: CRAN (The Comprehensive R Archive Network) と呼ばれる公式リポジトリには、世界中の研究者や開発者が作成した2万以上(2024年時点)のパッケージが登録されており、特定の分析手法をすぐに利用できます。
- 活発なコミュニティ: 学術界を中心に、非常に活発なコミュニティが存在し、最新の統計手法がすぐにパッケージとして実装されることも珍しくありません。
Pythonとの違いとRの強み
PythonとRは、どちらもデータ分析におけるトップランナーですが、その得意分野は少し異なります。
項目 | Python | R |
---|---|---|
得意分野 | 機械学習、Webアプリ開発、汎用プログラミング | 統計解析、データ可視化、探索的データ分析 |
主な利用者 | ソフトウェアエンジニア、機械学習エンジニア | 統計家、データアナリスト、研究者(生物学、経済学など) |
データ構造 | リスト、辞書、Numpy配列、Pandas DataFrame | ベクトル、行列、リスト、データフレーム |
エコシステム | PyPI (汎用) | CRAN (統計・分析に特化) |
簡単に言えば、Webサービスへの組み込みや複雑なシステム開発まで見据えるならPython、データと向き合い、統計的な洞察を深く掘り下げ、その結果を分かりやすく可視化するというタスクにおいては、Rが非常に強力な選択肢となります。
RとRStudioのインストール
Rを使うには、「R本体(言語の実行環境)」と、それを快適に使うための「RStudio(統合開発環境)」の2つをインストールします。
Step 1: R本体のインストール
- CRANの公式サイトにアクセスします。 https://cran.r-project.org/
- お使いのOS(Windows, Mac, Linux)に合ったリンクをクリックします。
- “base” や “install R for the first time” といったリンクをクリックし、表示される手順に従ってインストーラーをダウンロードし、実行してください。特に設定を変更する必要はなく、デフォルトのままインストールを進めて問題ありません。
Step 2: RStudioのインストール
R本体のインストールが終わったら、次にRStudioをインストールします。
- Posit(旧RStudio)の公式サイトにアクセスします。 https://posit.co/download/rstudio-desktop/
- サイトが自動的にお使いのOSを判別してくれるので、“DOWNLOAD RSTUDIO DESKTOP” のボタンをクリックしてインストーラーをダウンロードします。
- ダウンロードしたインストーラーを実行し、こちらもデフォルト設定のままインストールを完了させてください。
RStudioを使ってみよう
インストールが完了したら、RStudioを起動してみましょう。画面は大きく4つのペイン(区画)に分かれています。
- ソースエディタ(左上): Rのコード(スクリプト)を記述、編集、保存する場所です。ここに書いたコードは、後から再利用できます。
- コンソール(左下): Rのコードを直接入力して実行する場所です。簡単な計算や、コードの動作確認に使います。RStudioを起動した際のメッセージもここに表示されます。
- 環境/履歴ペイン(右上):
- Environment: 現在作成されている変数やデータの一覧が表示されます。
- History: これまでコンソールで実行したコマンドの履歴が表示されます。
- ファイル/プロット/パッケージペイン(右下):
- Files: PCのファイルやフォルダを操作できます。
- Plots: 作成したグラフ(プロット)が表示されます。
- Packages: インストール済みのパッケージ一覧の確認や、新しいパッケージのインストールができます。
簡単な計算をしてみる
まずはコンソール(左下)に、カーソルが点滅している >
の右側に、以下のように入力してEnterキーを押してみてください。
1 + 1
[1] 2
と表示されれば成功です。[1]
は「結果の1番目の要素」という意味です。
次に、簡単なグラフを描いてみましょう。以下のコードをコンソールにコピー&ペーストして実行してください。
plot(1:10)
右下の「Plots」タブに、点がプロットされたシンプルなグラフが表示されたはずです。
まとめと次回予告
今回は、R言語の概要と特徴、そして開発環境であるRとRStudioのインストール方法について学びました。Rが統計分析と可視化に特化した強力なツールであること、そしてRStudioがその力を最大限に引き出すための快適な環境であることが感じられたかと思います。
**次回の【第2回】**では、いよいよRのプログラミングに本格的に入っていきます。変数、データ型、そして基本的な操作について学び、Rでデータを扱うための最初の土台を築いていきましょう。
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